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ユニコーンではなく“三本角のトライコーン”を目指して ― SANU 福島代表インタビュー(前編)

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ユニコーンではなく“三本角のトライコーン”を目指して ― SANU 福島代表インタビュー(前編)

都市と自然を往復する新しいライフスタイルを提案するSANU。シェア別荘サービス「SANU 2nd Home」で事業を拡大し、創業6年目の2025年にはシリーズBで64.5億円を調達するなど、急成長を遂げています。なぜSANUは生まれ、どんな価値を社会に提供しているのか。同社が描く未来と経営のリアルに迫りました。(後編はこちら

福島 弦
GEN FUKUSHIMA
株式会社SANU 代表取締役CEO
McKinsey & Companyにてクリーンエネルギー分野の企業・政府関連事業に従事。その後、ラグビーワールドカップ2019日本大会の運営に参画。2019年、本間貴裕と「Live with nature. /自然と共に生きる。」を掲げるライフスタイルブランドSANUを創業。2021年11月にSANU 2nd Home事業をローンチし、現在33拠点の自然立地で事業を展開する。北海道札幌市出身。雪山で育ち、スキーとラグビーを愛する。
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「人と自然の距離を縮めたい」という創業原点

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まず、SANU誕生の背景を教えてください。
福島
都市に出て働くようになって、人と自然の距離が遠いと痛感しました。幼少期に雪山や森に囲まれて育った経験があったからこそ、そのギャップに強く違和感を覚えたんです。
自然に触れることは人間の根源的な欲求であり、その距離を縮めたいという思い。そうした原点とマッキンゼーやW杯の運営を通じ芽生えた「社会に大きなインパクトを与える事業を立ち上げたい」という志が重なり、起業へとつながりました。
社名のSANUはサンスクリット語で「山頂」「思慮深い人」「太陽」という意味。ブランドコンセプトの「Live with nature./自然と共に生きる。」には、自然と共に暮らす日常をもっと広げたいという願いを込めています。
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創業時には、さまざまな事業アイデアを検討されたとか。
福島
そうですね。たとえば「東京中のベランダを緑化する」といった案もありました。でも、体験としての深さが足りず、行動変容につながらないのではと感じました。最終的に「自分自身が本当に欲しいサービス」に立ち返り、自然の中にもうひとつの拠点を持つというセカンドホームの発想にたどり着いたんです。
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都市と自然を行き来し、生活を営むという新しいライフスタイル

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現在の主力サービスについて教えてください。
福島
SANUが2021年に始めたのは「SANU 2nd Home」というサブスク型の別荘です。月額会員制で全国の拠点を利用でき、従来は富裕層の特権だった別荘を持つという選択肢を、誰もが手にできる仕組みにしました。さらに、共同所有型や一棟所有型など複数のモデルを展開し、ライフステージやライフスタイルに合わせて選べるようにしています。
世の中の99.9%の人は、別荘は一生自分には関係ないものだと思っています。私たちはその前提を変え、誰もが自然と暮らす選択肢を持てる社会にしたい。そのための仕組みがシェア別荘です。
このサービスのユニークさは、単なる宿泊体験ではなく「暮らすように自然と関わる」ことにあります。滞在を繰り返すうちに拠点が自分のホーム(居場所)になり、都市と自然を行き来する新しいライフスタイルが生まれるのです。
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利用者層や反応についてはいかがでしょうか。
福島
これまで延べ数万人が利用し、利用者層は30〜40代の都市生活者やリモートワーカー、ファミリーが中心です。
印象的だったエピソードとしては、0歳から四季折々、海山川で自然に触れて育ったお子さまのご家族からいただいた手紙。生まれて初めて自然に触れる入口がSANUで、そこで育まれた好奇心の旺盛さに幼稚園の先生が驚いていたと綴ってありました。SANUが暮らしの一部として根付き、単なる宿泊施設以上の存在として人の人生に影響を与えていると実感できた瞬間でした。
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ブランド哲学と未来の市場創造

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類似サービスも増えてきていますが、SANUはどのように差別化しているのでしょうか。
福島
私たちは同業を、刺激を与え合う仲間と捉えています。そのうえで、事業づくりにおいて意識しているのは、実はパタゴニアです。
パタゴニアは単なるアウトドアブランドにとどまらず、環境問題に真摯に取り組みながらライフスタイルそのものを社会に根付かせてきました。消費財を売るだけではなく、「自然と共に生きる」という思想や文化を体現する存在です。
私たちもそうした姿勢から学びながら、「ホテル」ではなく「ホーム」をデザインし、日本的な自然観を世界に発信したいと思っています。
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今後の市場や、提供価値についてはどう捉えていますか。
福島
未来の市場をつくるうえで欠かせないのは、前述のエピソードのように子どもたちが幼少期に自然の原体験を持つことだと考えています。自然に触れる経験は感性や価値観を育み、30年後の社会を形づくる文化資本になります。短期的な利益には直結しにくいかもしれませんが、社会を持続的に変えていくためには欠かせないテーマです。
何より、自然と関わることは人間の根源的な欲求。都会的な生活の中でも「きれいな空気を吸いたい」「良い景色を眺めたい」という思いは誰もが持っているはずです。ゆえにSANUが向き合う市場、いわばTAMは限りなく大きいと考えています。
一方で、原体験がない人はこの価値に気づきにくい現実もあります。だからこそ、次世代の子どもたちが自然に出会える環境を増やすことが重要です。セカンドホーム事業だけでなくさまざまな構想がある中の一つに、いずれは学校をつくりたいという想いもあります。SANUを通じて人生のあらゆるフェーズで自然と関わり続けられる仕組みを育てていきたいと思っています。

創業の原点からサービスの広がり、利用者の声までを聞くと、SANUが単なる宿泊サービスではなく「自然と暮らす文化」をつくろうとしていることがわかります。後編では、成長戦略や経営哲学、未来への展望についてさらに掘り下げます。

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